良い一日は、夜からはじまる
「ただいま」から始まるほんとうの私の時間。黄昏どき、仕事を終えて帰りつく。「ただいま」。玄関を開けるとわが家の匂い。太陽と月が、入れ替わる。時間の手ざわりが変わる。これから私の一日を、はじめよう。
やさしい肌ざわりにつつまれる安堵感。部屋に入り、こわばった心を脱ぎ捨てる。何度も何度も水をくぐって、日と風にさらされた部屋着は、まるで肌の上で溶けるようにやわらかい。すうっ。呼吸が深くなる。
きれいなお化粧も一日経てば汚れになるから。蛇口をひねる。顔を洗う。水にふれるとなぜか無心になれる。あらそったり、競ったり、急いだり、頭を抱えたりするのは、ひとやすみ。鏡に映る私に、にっこり「おつかれさま」。
日々食べるものが今の私をつくっています。火があり水があり台がある、私の台所。シンプルでも丁寧に、と心で唱える。ここで野山の恵みと海の恵みが一汁三菜となって食卓にのぼる。地球とからだが、食べることでつながる。
浄化し、生まれ変わるお風呂時間。時には人工の照明を消してろうそくの灯りでお風呂に入る。月光と闇がお湯に溶けて、はだかの心とからだを芯まであたため、清めてくれる。
ずっと咲き続ける花を育てるように。肌は心とからだを映し出すから。肌を潤しながら、心も手入れする。誰も見ていなくてもていねいに。花に水をやるように、私が私をいつくしんで育てる。
夜の眠りは、甘美な魔法。日付が変わる前にベッドに潜りこむ。昼間あったこと、その記憶も小さな傷もぜんぶ私の中に深く沈んでゆっくり溶け合い熟していくだろう。たえず更新を続けながら。
太陽とともに目覚める朝。目覚めたらまずカーテンを開ける。「おはよう」。大きく伸びをする。起き抜けの白湯は甘く喉をすべり落ち、ゆっくりとからだに沁みてゆく。からだの巡りが動き出す。
からだを朝のよろこびで満たす。いつもの味が並ぶ朝食はしあわせだ。少し時間にゆとりを持って、からっぽになったからだを満たす。また日暮れまで機嫌よくしっかり働くための約束。
からだを朝のよろこびで満たす。いつもの味が並ぶ朝食はしあわせだ。少し時間にゆとりを持って、からっぽになったからだを満たす。また日暮れまで機嫌よくしっかり働くための約束。